z

癌とスタチン
奧山の結論
 動物実験では、調べられたすべてのスタチンが臨床用量と大きな差のない範囲で各種の癌を発生させた。臨床的にもスタチンによる発癌率増加を示す論文が数報あり、発癌機構も明らかにされ始めた。現状では、副作用情報として、スタチン類の発癌作用は避けて通れない。
2004年EU新規制以前の研究についてのメタアナリシス:
Statins and cancer risk-a metaanalysis-.
Dale KM et al., JAMA 2006; 295:74-80 
スタチンと癌の発症率、死亡率の間に相関は認められない。
血液癌に関する2007年のメタアナリシス:
Use of statins and risk of haematological malignancies:
a meta-analysis of six randomized clinical trials
and eight observational studies.
Bonovas S et al.,  Br J Clin Pharmacol 2007; 64:255-262
スタチンが血液癌の予防に有効であるとする証拠は得られなかった。
進行性前立腺癌とスタチンに負の相関がある
(スタチンが抑える)という論文 (3報)
第1報
Cholesterol-lowering drugs and advanced cancer incidence
in a large United States cohort.
Jacobs E et al.,  Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 2007; 16:2213-7
米国男性55,454人を6年追跡し、前立腺癌を4ステージに分類した。
全前立腺癌、ステージⅡ低グレード、ステージⅡ高グレードではスタチン使用の相対危険度は1.03-1.13であり、有意ではなかったが、
進行性前立腺癌(全前立腺癌の5%で19例)では
相対危険度は0.60(p=0.051)であった。
利益相反(COI)記述なし。
第2報
Cholesterol-lowering drugs and prostate cancer risk:
a population-based case-control study.
Murtola TE et al., Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 2007; 16:2226-32
フィンランドの患者(24,723人)-対照(同数)研究。
スタチン使用者は患者(10.6%)、対照(9.9%)で有意差なし。
全前立腺癌に対するスタチン使用のオッズ比は1.07で有意であったが、8.7%を占める進行性前立腺癌の場合は0.76と小さかった。
アステラス、リリー、オリオンファーマの支援あり。
第3報
第2報を受けてPlatz EAによる論説
Statin drugs and risk of advanced prostate cancer.
Platz EA et al., J Natl Cancer Inst 2006:98:1819-25.
It is still premature to recommend the use of statins
for the chemoprevention of advanced prostate cancer.
進行性癌の予防にスタチンを勧めるのは時期尚早である。
Long-term follow-up of the West of Scotland Coronary Prevention study.
Ford I et al.,N Engl J Med 2007;357:1477-86.
心疾患のハザード比がプラバスタチンで0.78(p=0.02)であったとする論文であるが、ブリストルマイヤー・三共が支援の研究である。
各種癌についてのハザード比は、全癌(1.05, p=0.50)、大腸癌(0.82, p=0.28)、肺癌(0.50, p=.50)、前立腺癌(1.46, p=0.03)と、
前立腺癌のみスタチンで有意に増加した。

SEAS研究 (長寿GL 表5, p.38) 
シンバスタチンとエゼチミブの併用で
心疾患は予防できなかった(ハザード比は0.96)。
発癌率は対照(7.5%)よりスタチン群(11.1%)が高い(p=0.01)
再発を除くと7.9%対10.8%で、p=0.01。
癌の種類別では有意差の出ているものはない。

英国PROSPER研究(2002)
Shepard J et al., Lancet 360:1623-1630
高齢者の場合、プラバスタチンが発癌率、癌死亡率を上げた。

4S研究とHPS研究の結果を会わせると、
非メラノーム性皮膚癌が増加。
4S研究:Scandinavian Simvastatin Survival Study
HPS研究:Heart Protection Study
非メラノーム性皮膚癌の発生はシンバスタチン群で256/12,490、
プラセボー群で208/12,490であり、その差は有意であった(p=0.028)

これ以降、すべてのスタチンの臨床試験で、
非メラノーマ性皮膚癌が除外されていると指摘した論文がある。
Ravnskov U.Correspondence, J Natl Cancer Inst 2008; 100(13) 972-973.
スタチンの臨床試験の途中で撤退、
理由は、犬の発癌性を認めた?
世界に先駆けて臨床までこぎつけたスタチン(メバスタチン、三共、遠藤章博士)。臨床の途中で撤退。理由の開示がないままで撤退したため、
欧米からの批判あり。後に、高用量で犬に毒性が現れたため、と説明されたが、イヌで発がん性が認められたためであるといわれている(要確認)。

J-LIT(Japan Lipid Intervention Trial)研究による
シンバスタチンの評価
J-LIT研究は対照群をおかない研究として報告されたが、J-LIT地域対照追跡調査研究は、別に報告されている。J-LITの結果は図17、p.40、長寿GLに掲載したとおり、
コレステロール値が大きく下がった群で癌死亡率と総死亡率が上昇した

虎ノ門病院における患者-対照試験
リンパ性悪性腫瘍で入院した患者に対する対照群を整形外科、耳鼻咽喉科から選んだ患者―対照試験。スタチンによるリンパ腫瘍発症のオッズ比は2前後と有意であった(p=0.001)
スタチンは制御T細胞(regulatory T cell)を増やし、
tumor specific T cellを抑えてしまう。
How statins may increase prostate cancer.
:Goldstein MR et al, Caner Epidemiol Biomarkers Prev , 2008;17::459

長寿のためのコレステロールガイドライン2010
P.46 図19
図19 スタチンによる発癌-提案されているメカニズム
スタチンによる発癌の機構については、
a)NK(ナチュラルキラー)細胞の腫瘍細胞認識能が低下する。
b)NK細胞の増殖にはコレステロール合成が必要。
c)イソプレニル中間体のレベル低下が電子伝達系を障苦し、
  虚血・炎症  に導き、発癌促進に至る。
d)アラキドン酸の上昇に伴うアラキドン酸カスケードの亢進が
  発癌促進にいたる(Jula,A.,Marniemi,J. et a1. 2005)。
e)スタチン濃度の日内変動に伴うイソプレニル中間体の上昇の日内
  変動が、発癌遺伝子産物(Ras,Rhoなど)を活性化する。
以上が考えられている。
しかし現在のところ、その機構が完全に解明されているわけではない。
ラットとマウスによる実験
臨床量と大差のない用量で、
調べられたスタチンはすべて、各種の部位に対して発癌作用を示した。
長寿のためのコレステロールガイドライン2010 表7.P.38