米国発、新コレステロールガイドライン(2013年版)の衝撃
奧山治美1、浜崎智仁2、大櫛陽一3
1名古屋市立大学、金城学院大学消費生活科学研究所
2富山大学、富山城南温泉第二病院
3東海大学、大櫛医学情報研究所
連 絡 先
奧山治美、金城学院大学消費生活科学研究所
〒463-8521 名古屋市守山区大森2-1723
TEL&FAX 052-876-3840
E-mai : okuyamah@kinjo-u.ac.jp
キーワード
ACC/AHAガイドライン2013、日本動脈硬化学会ガイドライン2012、
日本脂質栄養学会ガイドライン2010、10年-冠疾患死亡確率
The impact of a new cholesterol guideline issued from the USA
Harumi Okuyama1, Tomohito Hamazaki2, Youichi Ogushi3
1Nagoya City University and Kinjo Gakuin University,
2Toyama University and Toyama Jonan Onsen Daini Hospital,
3Tokai University
Summary
Previous cholesterol guidelines for the prevention of CHD were based on “the lower, the better”hypothesis, setting upper LDL-C limits and treating patients to maintain their cholesterol levels below the targets, as seen in the ATPⅢ issued from the National Heart, Lung, and Blood Institute(NHLBI) and that issued from the Japan atherosclerosis Society (JAS GL). We published a new cholesterol guideline for longevity(JSLN GL 2010), in which evidence was presented that a high cholesterol level is not a causative factor of CHD but is a predictor of longevity among general populations over 40-50 years of age. Recently, a long-waited revision of the ATPⅢ was published from the NHLBI in conjunction with the American College of Cardiology and the American Heart Association(ACC/AHA GL 2013), in which “setting targets to treating patients with statins” and “the lower, the better hypothesis” were abandoned because of the lack of clinical evidence. However, both the JAS GL2012 and ACC/AHA GL 2013 brought about estimated 10-year CHD(ASCVD) risk mainly based on NIPPON DATA80 and NHLBI-supported studies, repectively, resulting in increased estimated number of subjects to be treated with statins. Here, we point out that the estimated 10-years risks are not usable because they are not evidence-based. Moreover, we summarize biochemical mechanisms underlying the statin actions to increse heart failure, diabetes mellitus and other diseases after long-term treatments. The cases for which statins, all mitochondrion-toxic, are applicable should be extremely restricted.
Key words
ACC/AHAguideline2013, JAS guidelines2012,
JSLN Guidelines for longevity2010, estimated 10 year-ASCVD risk.
Ⅰ はじめに - 本稿で比較するコレステロールガイドライン
  コレステロ-ル値が高いと動脈硬化が進む、というコレステロール仮説は1950年代から始まり、1990年代には悪玉LDL-C/善玉HDL-C仮説となり最近まで続いてきた。米国がこの流れを主導しており、米国心肺血液研究所(National Health,Lung,and Blood Institute,NHLBI)が2001年に出したAdult Treatment Panel(ATPⅢと略)を、わが国を始め多くの国がそれぞれの国に合わせたガイドラインを作る基礎とした。このATPⅢの改訂版が2004年に出されて以来、これに合わない多くの臨床論文が発表され、次の改訂版がいつ出るかと騒がれていた。ここ2,3年は米国の冠疾患関係の学会が開かれるたびに、「今年も出なかった」というニュースが聞かれた。新ガイドラインはNHLBIとの共同で米国心臓病学会(American College of Cardiology,ACC)と米国心臓協会(American Heart Associatlon,AHA)から2013年11月12日に公表された(ACC/AHA GL 2013と略)1)
 一方、わが国では日本動脈硬化学会が中心となり動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版が出され、2012年に改定版が出された(動硬 GL2012と略)2)。これらは本質的にATPⅢと同じ方向であった。そしてわが国では現在、動硬 2012についての広報活動が各都市で頻繁に行われている。ATPⅢも動硬GL 2012もともに、「コレステロール値は低ければ低いほどよい」という理解に基づき、病態に応じてコレステロールの管理目標値を決め、それを維持するためにコレステロール低下剤(スタチン)を使用する、という医療を中心にすえている。

略 号
ACC:米国心臓病学会 (American College of Cardiology)
AHA:米国心臓協会 (American Heart Association)
ASCVD:動脈硬化性心疾患 (Atheroscrelotic Cardiovascular Disease)
CHD:冠動脈心疾患、冠疾患
FH:家族性高コレステロール血症
LDL-C:低比重リポタンパクコレステロール
NHLBI:米国心肺血液研究所 (National Heart, Lung, Bood Institute)
TC:総コレステロール

 われわれは日本脂質栄養学会を中心として「長寿のためのコレステロールガイドライン2010年版販(長寿2010と略)3)」を公表したが、これはATPⅢ 2004および動硬GL 2007と根本的に異なる新しい方向を示したもので、その内容は次のように要約できる。
長寿GL 2010 の要点
① コレステロール値の肝疾患に対する相対危険度は、調査集団により、また年齢に
により1以下(負の相関)から5以上(正の相関)と大きく変わる。家族性高コレステロール血症(FH)はLDL受容体機能に障害があり、若齢時よりコレステロール値が高く、冠疾患死亡率も高く、平均生存率が低いが、集団中のFHの割合が相対危険度の変動をもたらす主因子であると理解できる。すなわち、FHと非FHは区別すべきである。
② 企業が中心となって行われた臨床試験の多くについて非倫理的な問題が露見し、
企業中心の臨床試験報告は信頼できない、という議論が超一流の医学誌上で公然と議論されるようになった。これを背景に臨床試験についての罰則付きの新規制がEUで作られ2004年に発効した。それ以前の1990年代に「スタチンはLDL-C値を下げ、冠疾患イベントを3割前後下げる」という多くの臨床論文が発表されたが、2004年以降、企業と利益相反のないチームにより行われた臨床試験はすべて、「スタチンはLDL-C値を下げるが有意な心疾患予防効果は認められなかった」、と報告した。動硬GL 2012は1990年代に行われた企業中心の論文を含むメタ解析の結果に基づき、LDL-C値の低下が冠疾患予防に有効であるとしているが、長寿GL 2010は後者に基づき、LDL-C値が高いことは冠疾患の原因となっていないと結論した。
③ 冠疾患とコレステロール値の間に有意な正相関がない集団が多くあり、それが一
般者のの大部分である。さらに、コレステロール値が高い群ほど癌や脳卒中、全死因による死亡率が低く、高コレステロール値は長寿の指標となっている。これらの集団ではコレステロール低下医療は不適切である。
④ コレステロールエステル輸送タンパク(CETP)の阻害剤が開発され、臨床的にスタチ
ンとの併用でLDL-C値の低下、HDL-C値の上昇が認められた。しかし、冠疾患予防効果は認められず、総死亡率が有意に上がったため臨床試験を中止した(ILLUMINATE研究)。すなわち、コレステロールの善玉、悪玉説は崩壊した。
⑤ 脳卒中死亡率とコレステロール値は負の相関を示し、コレステロールや飽和脂肪
酸の摂取が多いほど脳卒中死亡率が低い。また脳卒中で緊急入院した患者のうち、高脂血症と診断されている人の方が予後がよい4)。脳卒中予防にスタチンは使うべきではない。
⑥ 中性脂肪(TAG)が冠疾患の危険因子であることを示すエビデンスは認められてい
ない。
⑦ 冠疾患予防のためには、高リノール酸(ω6)植物油および動物で脳卒中促進作
用を示す植物油脂の摂取を減らし、ω3系油脂の摂取を増やす、あるいはEPA製剤、DHA製剤を使うことを勧める。
Ⅱ ACC/AHA GL 2013の概略および動硬 GL2012、長寿GL2010の相違点
 動硬 GL2012ではATPⅢに沿った形で、コレステロールの管理目標値を設定し、それ以下に保つことを下記のように勧めている(Fig. 1)。
動硬GL 2012のコレステロール管理目標値
(1) 冠疾患既往者ではLDL-C値として100mg/dL 未満、
(2) 糖尿病、慢性腎臓病、非心原性脳梗塞、あるいは末梢動脈疾患の人では
120mg/dL 未満、
(3) このようなリスクは持たないが、NIPPON DATA80を基礎とした10年-冠疾患死亡
確率(絶対リスク)が0.5~2.0%の人では、140mg/dL 未満、
(4) 10年-冠疾患リスクが0.5%未満の場合は160mg/dL未満。


 今回公表された米国ACC/AHA GL 2013が臨床家に与えた衝撃の最大のものは、「LDL-Cあるいはnon-HDL-Cの管理目標値を設定し、それ以下に保つためにスタチンを使う」という医療を、臨床的エビデンスがないとして放棄したことである。さらに、「低ければ低いほどよい」説も、エビデンスがないとして葬ったことである。
 このことは、上記、動硬GL 2012の(1)と(2)を否定したわけで、]日本動脈硬化学会および関連医学会は、完全に“はしご”を外されたかにみえる。修正版を出すかあるいは独自の路線を突き進むのか、速やかな対応が求められている。
 われわれの長寿GL 2010が提起した上記①~⑦については、ACC/AHA GL 2013の内容にかかわらず修正すべき点はない。
 
 さてACC/AHA GL 2013は「コレステロール管理目標値を設け、それ未満に保つという医療はエビデンスがない」として放棄したが、スタチンの使用を放棄してわけではなかった。スタチン以外のコレステロール低下剤の有効性は認めなかったものの、次の4群についてスタチンは有効であるとしている。
(1) ASCVD」(atherosclerotic cardiovascular disease)既往の人
(2) LDL-C値が190mg/dL以上の人
(3) 40~75歳の糖尿病患者で、LDL-C値が70-189mg/dLの人
(4) 40~75歳の人で肝疾患、糖尿病をもたず、LDL-Cが70-189mg/dLであるが、
10年-ASCVDリスクが7.5%以上の人
 76歳以上の高齢者を対象としていないこと、LDL-Cのカットオフを190mg/dLとしたことなどは長寿 GL2010と矛盾せず評価できる。しかしこの4群でスタチンが有効であるとするエビデンスは、いずれも不十分であることを次に指摘する。
長寿GL 2010側からの指摘
(1) 動硬GL 2012もACC/AHA 2013も冠疾患既往者にはスタチン療法を無条件で
認めており、これは無作為割付対照試験(RCT)でエビデンスがあるとしているが、2004年EU新規制以降の臨床試験では、冠疾患に対する有効性が認められていない。さらに、スタチンはミトコンドリア毒であり心筋のATP産生を阻害すること、微量元素Seの欠乏症と共通のメカニズムにより心不全を発症させることことなどが生化学的に明らかにされてきた。横紋筋融解症に相当する作用が心筋(横紋筋)にも働き、長期的には心疾患が増えることが予測できる。
(2) スタチンはFHに対しても有効性は認められておらず、FHでは冠疾患死亡者と生
存者の間にコレステロール値の差がない。FHにおいても高LDL-C値そのものは冠疾患の原因とはなっておらず末梢細胞へのエネルギー源(TAG)やコレステロールの持続的な供給不足(長寿GL2010)、血栓性の亢進などがこの場合の冠疾患の原因として指摘されている5)
(3) 糖尿病の主要合併症として冠疾患があることから、糖尿病-コレステロール-
冠疾患の因果関係を考慮することなく、糖尿病者にスタチン治療を無条件で認めている(動硬GL 2012、ACC/AHA 2013)。しかしわれわれは、糖尿病にスタチンは禁忌とする緊急提言を発信した6)。その根拠は、(ア)スタチンが糖尿病を新規発症させることが臨床的に明確となった(先進諸国では添付文書に注意書きが載っている)、(イ)スタチンが糖尿病を発症させる生化学的メカニズムが明らかになってきた、 の二点である。コレステロールレベルの低下に伴うラフト構造の変化によるインスリン受容体への影響、プレニル中間体から作られるCoQやヘムAを介したミトコンドリア機能低下とケトン体合成阻害、プレニル中間体から作られるイソペンテニルアデニン合成の阻害による過酸化ストレスの上昇やインスリン受容体のプロセシングの障害およびインスリン抵抗性の上昇、プレニル中間体から作られるドリコールの低下によるインスリン受容体のプロセシング障害など、スタチン投与期間が長くなるほど糖尿病発症がすすむことを示している6)。LDL-C値を下げても糖尿病者の冠疾患予防ができないことから、スタチンは糖尿病者にはとくに禁忌となる。
 次にACC/AHA GL 2013および動硬GL 2012にそっと忍び込まされている10年-(冠疾患死亡確率あるいはASCVD発症確率)リスクを検証してみよう。米国では10年-ASCVDリスクを採用することになれば、スタチン治療の対象者が3,000万人(現在の2倍)に増えると推測されている。多くのスタチンの特許が切れ、OTC(over the counter)薬になって処方箋なしに薬局で買えるようになると、企業にはこれまで以上の利益が約束されることになる。この薬の不可逆な有害作用(催奇形性、発癌作用、中枢障害など)が短期間では明らかになりにくく、加齢にともなってあらわれる症状と区別しにくいことから、OTC薬への認可が進むとしたら一大事となるであろう。
Ⅲ ACC/AHA GL2013における10年-ASCVDリスクの計算ツールの問題
 10年冠疾患死亡確率はフラミンガム市民 30~74歳の追跡研究に基づき、性、年齢、TC、LDL-Cなど各種因子に配点し、ポイントを合計して、表に基づきリスクスコアを求めるものであった(Wilson PWFら、1998)。現在では否定されているLDL-CとHDL-Cに正と負のポイントを与えるとか、加齢とともにコレステロールの相対危険度が小さくなるという報告と合わず、利用できるものではなかったが、計算の原理は単純明快であった。その後、フラミンガム市民50歳の追跡に基づく冠動脈疾患生涯リスクが少し複雑な計算により示されているが(Lloyed-Jones DM ら、2006)、(ア)評価項目が心筋梗塞と脳卒中に加えて、心不全、狭心症、跛行も含まれている。これら疾患に対してスタチンの有効性は認められていないので、冠動脈疾患生涯リスクとスタチンの必要性とは関係がない、(イ)フラミンガム市民の50歳時点のベースラインデータのみに基づいているので、他の年齢層への適応はできない、(ウ)研究対象者が男性3564人、女性4362人と少なく信頼性が低い、などの問題があった。
 最新のASCVD(冠疾患、脳卒中など)10年-発症確率(10年-ASCVDリスクと略)は、NHLBIの支援した研究(フラミンガム研究と他の三研究)の対象者(25,000人)の追跡調査の結果に基づく式で計算される(Fig.2)7)

 評価リスクは1から10年生存率(S10)のa乗を差し引いたものである。aは自然対数の底(e)の(b-c)乗である。bは自然対数(Ln)を使い、Ln(Age)、Ln(TC)、Ln(Age)×Ln(TC)、Ln(HDL-C)、Ln(Age)×Ln(HDL-C)、Ln(systolic BP)、Ln(Age)×Ln(treated systolic BP)、Ln(untreated systolic BP)、Ln(Age)×Ln(untreated systolic BP)、Current smoker (1=Yes, 0=No)、Ln(Age)×Current smoker、Diabetes (1=Yes, 0=No)のそれぞれに、与えられた正あるいは負の係数を乗じたものの総和として求められる。cは集団の平均値について計算した値である。これは白人男性用であり、女性には少し異なる式を使う。アフリカ系米国人には異なる係数が与えられている。

 この原報7)について、次のような問題がある。(ア)対数変換した因子やその積を使った医学統計学的説明が必要である、(イ)TC値が式で使われているのに、ガイドライン本文ではLDL-C値で基準を決めているのでツールとしては不適切である、(ウ)使われている係数の合理性(再現性、信頼性)に大きな問題がある。たとえば白人女性では年齢が予防因子となっている、女性の方が男性よりTCリスクが高くなっている、黒人女性の血圧リスク係数が他の集団より一桁大きくなっているが、白人と黒人の遺伝子は99.99%一致しており係数の大きな差を合理的に説明できない、(エ)この式は発症率を予測するだけでありスタチンの療法の効果を予測しているわけではない、などである。
 フラアミンガム市民についての他の研究では、(ア)加齢に伴いTC値の冠疾患に対する相対危険度が小さくなる、(イ)14年の観察期間にTC値の低下した群では、続く18年の冠疾患死亡率、総死亡率が有意に高かったと報告されている8)が、この方式に合うとは考えられない。また多くの遺伝学者は人種による薬物効果の差を否定している。
 重要なことは、このように求められる10年-ASCVDリスク スコアが、臨床的に当てはまることを示す研究はどこにもない、ということである。
Ⅳ 動硬GL 2012における10年-(冠疾患死亡確率)リスクとNIPPON DATA 80に
基すくチャートの問題点
 動硬GL 2012ではすでに、LDL-CやHDL-Cとともに10年-冠疾患死亡確率リスクを使っている(上述)。これは厚生労働省循環器疾患基礎調査の結果(NIPPON DATA80)9)に基づきスコア化し、チャートで示したものである。男女性別、血糖値で2群、コレステロール値で6群、年齢で4群、喫煙状態で2群に分けたので480枠があり、各々に対する10年-冠疾患死亡確率(絶対リスク)が求められたものである。各枠は確率0.5%未満から10%以上に色分けされている。上述、「動硬GL 2012のコレステロール管理目標値、(3)」では10年-リスクとして0.5-2.0%が使われている。このNIPPON DATA 80は対象者が少なすぎ、それに基づく10年-絶対リスク評価チャートは臨床の場で使えるものではないことは、浜崎らにより別に解析、報告されている10)。例えば480枠に対応する冠疾患死亡数は67例以下であり、随時血糖値≧200mg/dLの240枠に対する総対象者数は67名、冠疾患死亡数は5例以下である(男性の場合)。さらに次のような諸問題がある。
① NIPPON DATA 80の対象者は若齢者に偏っており(長寿GL 2010 で指摘)、一般集団に適用できない、
② 一般に加齢とともにコレステロール値の冠疾患死に対する相対危険度が小さくなるが(長寿GL 2010)、それがチャートに反映されていない、
③ 冠疾患死亡率とコレステロール値が負の相関、あるいはその傾向を示す臨床試験結果、例えば守口市民研究11)と合わない、
④ コレステロール値と冠疾患死亡率の関係は不連続的であり、コレステロール最高値群のみ冠疾患の相対危険度が上がるとというわが国の大規模追跡調査結果、JACC研究12)、茨城健康調査13)と合わない、
⑤ この計算された確率(リスク)の妥当性を示す臨床研究は全くない、
などである。
 以上のような観点から、10年-冠疾患死亡確率に基づくチャートは、わが国の医療の現場に適用すべきものではない、と結論する。このようなデータを駆使して意図的にスタチン治療の対象者を増やしているとすれば、それはほとんど犯罪的であるとさえいえる。
Ⅴ おわりに-迷路への導入を許すな!
 コレステロールと動脈硬化の因果関係がTC値で説明できなくなり、LDL-C/HDL-C説へと進んだ。これが破綻するとその先には10年-冠疾患死亡確率が準備されていた。この10年-リスクという指標は多くの矛盾する報告を無視することによってつくられており、科学的であるとはいえない。何よりも臨床的に全く検証されていないものである。このように先々に気を巡らせて多忙な臨床医を混乱の場、迷路へと導こうとするのは、その裏に巨額の利益が絡んでいるからであろう。このような利益相反の構図は多くの国で暴かれてきた。
 スタチンは単に心臓血管疾患の予防に効果がない、ということだけでは済まされない。数年の臨床試験では顕わにならなかった不可逆な有害作用が、長期的にはすべからくあらわれることは、これまでに明らかにされてきた生化学的な作用メカニズムから容易に予測できる6)。OTC薬として成人の3割以上がサプリメント並みに使うようなことになれば、グローバルな薬害問題が発生するであろう。
 40歳以上の全員のコレステロール値を測定し、」その管理目標値を定め、それを維持するためのコレステロール低下医療を行う制度は、先進国中で日本が最も発達しているように見える。この制度が、いわゆる権威があり日本の医療界が依存してきた機関(ACC/AHA、NHLBI)で、「臨床的エビデンスなし」と断罪されたのである。これを機に、ミトコンドリア毒としてスタチンの作用を見極め、多くの医療面でコレステロール低下医療の道を引き返す勇気が求められている。
参考文献
1. Stone NJ, Robinson J, Lichtenstein AH et al. Circulation published on line
November 12, 2013;
http://circ.ahajournals.org/content/early/2013/11/11/01.cir.0000437738.63853.7a.citation
2. 日本動脈硬化学会 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版、(社)日本動脈硬化学会、
2012年
3. 日本脂質栄養学会、長寿のためのコレステロールガイドライン、中日出版社、2010年
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