NIPPON DATA80の 
冠動脈疾患死とコレステロールの関係を示すチャートは
基礎となる症例数が非常に少ない 

浜崎智仁1,奥山治美2,浜六郎3,大櫛陽一4
1富山大学名誉教授,〒939-8271富山市太郎丸西町1-13-6 富山城南温泉第二病院,
 hamazaki@inm.u-toyama.ac.jp 電話:076-421-6300 Fax:076-491-2825
2名古屋市立大学名誉教授,〒463-8521名古屋市守山区大森2-1723 消費生活科学研究所,
 okuyamah@kinjo-u.jp 電話:052-876-3840 Fax:052-876-3840
3 NPO法人医療ビジランスセンター(薬のチェック)代表 〒543-0002 大阪市天王寺区上汐3-2-c17 
 コモド上汐ビル902,gec00724@mifty.com 電話:06-677-6345 Fax:06-6771-6347
4東海大学名誉教授,〒254-0807神奈川県平塚市代官町12-4 大櫛医学情報研究所
 oogushi.youichi@gmail.com 電話:0463-21-2220 Fax:0463-21-2220
The Risk Chart of NIPPON DATA80
Showing the Relationship between
Mortality from Coronary Heart Disease and Cholesterol
Is Dependent on a Very Small number of Cases
Tomohito HAMAZAKI, Harumi OKUYAMA, Rokuro HAMA,Youichi OGUSHI
Summary
  The risk chart of NIPPON DATA80 showing the absolute mortality from coronary heart
disease(CHD)is the only chart of this type widely used in the medical field in Japan.In this
chart,there are 240 frames for men with casual blood glucose of ≧200mg/dL(the right side
of the chart);these frames are separated according to smoking status, age, systolic blood
pressure, and total cholesterol. The absolute CHD mortality during 10 years in these 240
frames ranges from <0.5 % to ≧10%(more than 20 times difference). However,we estimated
that there were only 5 CHD deaths at most in these 240 diabetic frames during the study
period of NIPPON DATA80. The left(non-diabetic;another 240 frames)part of the chart was
adopted for the Guidelines by Japan Atherosclerosis Society after excluding 60 frames for
those in their 70s(180 frames as a whole),but those 180 frames were estimated to have only
35 CHD deaths despite the risk difference being more than 10. Furthermore, statistical values
such as p value and confidence interval were not found either in the paper introducing the risk
chart or in the referred paper for methodology. We, therefore, could not statistically estimate
appropriateness of the risk chart. In conclusion,the NIPPON DATA80 risk chart for CHD
mortality is not suitable for guidelines or education.
Keywords:Cholesterol,guidelines,coronary heart disease, absohte risk, NIPPON DATA80

1.はじめに
 冠動脈疾患(CHD)死の絶対リスクと各種危険因子の関係を見事に表している図として、
NIPPON DATA80(ND80)のチャート1)が利用されている。動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2007
年度版)2)にはそのままそっくり利用されているし、最近では、日本内科学会雑誌(動脈硬化の特集,
2013年)3)にこのチャートが載っている。また、厚生労働省を始めNHKでも利用してきた経緯があるが、
このチャートをきちんと検証した研究は今までほとんどなかった4)
2.方法
(1)リスク区分別の症例数の検討
ND80に関わる英文論文1,5,6)からデータを抽出し、一部合理的な推計を含め各リスク区分に属するCHD死亡症例数を計算した。推計した部分は明示した。
(2)CHD死の絶対リスク推計方法の吟味
文献1)に引用されているND80関連論文7)に記載されているCHD死の絶対リスクの統計学的な推計方法につき原則的な統計方法に照らし、その妥当性について吟味した。なお、いずれについても、女性では年齢と喫煙以外に大きな危険因子がないため1)、男性のみで検討した。
3.結果
(1)リスク区分別の症例数の検討
 図1はCHD死の絶対リスクを年齢、性別(このチャートは男性のみ)、糖尿病(随時血糖200mg/dL以上)、喫煙、収縮期血圧、および総コレステロール値に従い表示したものである。このチャートは、ND80のコホートを19年間追跡したデータ(ND80-19と略)を基に作成されている1)。全国300の地域から集められたND80の参加者は、全体で9,353人(男性4,098人、平均50.3歳、女性5,255人、平均50.8歳)であり、追跡期間中に132人(男性67人、女性65人)のCHD死亡例が報告されている。

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 ND80-19の論文1)には132人のCHD死亡例の詳細なデータが見当たらないため、また、コホートそのもののデータが不十分なため、同じコホートと思われるものを17.3年追跡したデータ(ND80-17.3と略)5)と13.2年追跡したデータ(ND80-13.2と略)6)も利用した。ND80-17.3ではCHD死が128人報告されており、男女ともND80-19より,2人ずつ少ない。ND80-17.3と-13.2はコホートの人数が同じで9,216人だが,ND80-19ではコホートの人数が9,353人に増えており、男性でも4,035人から4,098人となっている.本来コホートを途中で変更することはないが、微少な差なのでここでは無視することにする。
 まず、図1のお右側にある糖尿病群(随時血糖が200mg/dL以上の群)にCHD死が何人いるかについて検討する。ND80-19の男性コホートには、1.61%の糖尿病(上記の定義)が含まれている(引用文献1のTable1)。糖尿病によりCHDで死亡する確率が5倍高まると仮定した場合(このことでチャートの右側に位置する症例数が多めに推計されることになる)、糖尿病者のCHD死は5人となる(計算式は脚注1を参照のこと)。

脚注1
男性での全CHD死亡例は67人で、コホートに含まれる糖尿病は61%である。そこで、糖尿病によりCHD死の危険が5倍たかまるとすると、67×0.0161×5=5.39(症例)となる。より正確には、67×0.0161×5/(0.9839+0.0161×5)=5.07(症例)となる。もし3倍高まるとすると、3.14となる{67×0.0161×3/(0.9839+0.0161×3)}。

 次に、動脈硬化学会のガイドライン8)に出て来るチャートの男性CHD死亡数について検討する(図1の灰色の枠で囲まれた部分)。まず、ND80-19に比べ2人CHD死が少ないが、ND80-17.3にCHD死についてある程度記載があるので、それを表1にまとめた。図1に示されている総コレステロール値を20mg/dL-ごとに区切ったコレステロール区分(計6区分)とチャートには含まれていない
<160mg/dL群がある。


  まず、この表1に記載されていて、動脈硬化学会のガイドライン8)(灰色枠)に含まれていない症例数を検討する。ガイドラインには70歳以上は含まれていないため、70歳以上のCHD死亡例について計算したところ23人となった(詳しい計算は脚注2を参照のこと)。糖尿病のCHD死亡例(図1の右半分)を検討すると上記のように5人となった。このうち70歳未満の志望者の割合は、65%弱{(65人-23人)/65人}と計算できるため、70歳未満の糖尿病でCHD死亡例は3人となる(5人×0.65弱=3.2人)。<160mg/dLの区分全体でCHD死亡例は10人であるが(表1を参照)、これも動脈硬化学会のガイドラインに含まれていない。<160mg/dL群で、糖尿病でなく、70歳未満のCHD死亡例は65%弱のため6人と計算できる(ただし、糖尿病は症例が極めて少ないと判断して無視した)。最終的に動脈硬化学会のガイドラインのチャートに利用されたCHD死亡者数は65-23-3-6=33と推定される。ただし、ND80-19ではCHD死亡例が2人多いため、2人を加え35人となる。(ただし、加える2人のうち動脈硬化学会のガイドラインに入るのは1人である可能性が高い。これは、そのチャートに含まれる症例数33~35人が、ND80-19の総症例数67人の半分であることから推定できる。)以上の計算をふまえ、図2に大枠ごとの死亡例数を記載した。

脚注2
ND80-19にはコホートの年齢分布が見当たらないが、ND80-13.26)には年齢分布図が(引用文献6のFig1)があり、その図から男性参加者で70-79歳と80-89歳は、それぞれ、ほぼ323人と60人であることが計算できる。男性でのCHD死亡例(65人)に対する総死亡者数(992人5))の割合は、0.066である。観察期間中の17.3年間で70-79歳の90%と80-89歳の100%が死亡したと推定すると、CHDでの死亡例は、それぞれ、19人(323×0.9×0.066)と4人(60×0.066)(計23人)となる。(ただしこの計算は年齢により、CHD死亡率が大きくけんかしないと仮定したものである。)なお、この23人の中でも糖尿病か否かにつき、脚注1と同様に計算して、非糖尿病21人、糖尿病2人とした。


 動脈硬化学会のガイドラインのチャート8) では、総コレステロール値の最高範囲は260-279mg/dL(区分6)となっており、280mg/dL以上は含まれていない(図1参照)。一方、表1のコレステロールの区分6を見ると、260となっており(260-279mg/dLではない)、その群の平均値が282mg/dLであるため、最低でも280以上には症例が1人はいることが推定される。チャートの区分6には280以上は含まれないため、恐らく、さらに1人減らす必要がありそうで、正確には34人が正しい推計値となるだろう。問題は、34と35の違いではなく、表1から分かるように、コレステロール理論にとって一番重要となる区分6(260-279mg/dL)では全ての枠を足しても(総計5×16=80枠)、症例が最多でも2人しかいない点にある。
(2)CHD死の絶対リスク推計方法を吟味
 CHDの絶対リスクはCox比例ハザードモデルを利用して推計されていた7)。この方法は、すべての推定項目(血圧、コレステロール値、糖尿の有無、喫煙の有無、年齢)の平均値を持った人の生存率を推定する(文献7では10年で0.9974)。ある個人の生存率を計算する時は、推定した確パラメーターと平均値との差を求め、さらに各パラメーターの回帰係数を掛け、それを合計する(合計値をXとする)。Exp Xを計算して、0.9974をExp X乗ずれば、その人の生存率となる。死亡率は1.0より引けばよい。このモデルを用いて、死亡人数が極端に少ない部分(たとえば糖尿病の部分)でも死亡率を計算することは可能である。しかしながら、推計の妥当性を示すための統計量として重要な有意確立(p値)や信頼区間が、リスクチャートを示したND80-19論文1)にも、その論文により引用された統計方法を示す論文7)にも全く明示されていなかった。
4.考察
 今回の検討結果、糖尿病群(チャートの右側)では、絶対リスクが一番高い群と低い群に20倍以上の差があるのに、CHD死亡症例が多くとも5人しかいないことが判明した。「多くとも」とは、糖尿病のCHD死のリスクは非糖尿病者の5倍と見積もったためである。実際は3人程度かもしれない。また、男性のCHD死の危険率を示すチャートとして、動脈硬化学会のガイドライン8)では、図1(あるいは図2)の太枠で囲まれた部分が利用されている。枠は全部で180(30×6)あるが、症例数は全部で35人程度である。平均すれば5枠に1人である。しかも、一番高い危険率と一番低い危険率に10倍以上の差があった。しかも、全体像(480枠)から一部(180枠)を取り出して提示してある。 
 図1で一番危険となる総コレステロール値の区分6には、症例がどんなに多く見積もっても2人しかいない。可能性は非常に低いが、その区分に19年の追跡で増えた2人が加わってたとしても4人である。コレステロールが高いと危険であることを示すのに利用されている図なのに、一番コレステロールの高い80(5×16)枠に症例がどんなに多くても4人(実際のところ恐らく2人)とは、極めておかしい。動脈硬化学会のガイドラインのチャートには、67人の約半数しか含まれないため、区分6の30(5×6)枠には症例が1人しかいないと推定できる。
5.結論
 チャート作成のために必要なCHD死の絶対リスクの推計に用いられた方法を吟味した結果、Cox比例ハザードモデルを利用して推計されていた。ところが、統計学的な推計に必須な有意確率が全く記載されていなかった。CHD死亡者67人から480枠(平均7枠に1人)の死亡リスクを推計しており、その一部を利用した動脈硬化学会の男性リスクチャートでは、180枠に入るCHD死亡者35人(平均5枠に1人)しかいなかった。データが少なく、有意確率を無視した推定値をもとにしたNIPPON DATA80のチャートは信頼性を欠くため、ガイドラインや啓蒙への利用は不適切である。
参考文献
1.NIPPON DATA80 Research Group.
  Risk assessment chart for death from cardiovascular disease based on a 19-year
  follow-up study of a Japanese representative population. Circ J 2006; 70: 1249-55.
2. 日本動脈硬化学会編集. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2007年版).日本動脈硬化学会
  発行(東京), 2007
3. 三浦克之, 他. NIPPON DATAから. 日本内科学会雑誌  2013; 2: 282-8
4. 日本のコレステロール問題ーなぜコレステロール目標値は低く設定されのか? (Hamazaki T et al.
  Ann Nutr Metab 2013; 62: 32-6の日本語版)
   http://jsln.umin.jp/230128-1ANMJpnversion.pdf
   http://jsln.umin.jp/Against-JASG2012.html
5. Okamura T. et al. The relationship between serum total cholesterol and all-cause or
  cause-specific mortality in a 17.3-year study of a Japanese cofort. Atheroscledosis.
  2007; 190: 216-23
6. Okamura T et al. What cause of mortality can we predict by cholesterol screening in
  the Japnese general population J Intern Med. 2003; 253: 169-80.
7. 笠置文善, 他. NIPPON DATA80 を用いた健康評価チャート作成:脳卒中および冠動脈疾患.
  日循予防誌 2005; 40: 20-26.
8. 日本動脈硬化学会編集. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版).日本動脈硬化学会
  発行(東京), 2012